IE9ピン留め
手が届かない10の御題  02.白昼夢



昨日のことを思い出してみて。
ぼんやりして、何を食べたのかも、
ちょっと考え込まないと、よみがえってこない。
昨日のことでこれぐらい迷うなら、
1年まえなんて、
10年まえなんて、もうまっさら。

きっと、それでいい。
記憶がいくつもつみかさなって、
いっぱいの本だなを横にしたみたいになったら、
きっと気が狂う。
忘れることができるから、生きてこれた。
生きてこれたのは、忘れることが、たくさんあったから。

そんな中でも、あざやかによみがえる、
ささやかな夢や、一瞬の景色がある。
色もかたちもはっきりしないのに、
それを見たという意識だけ、輪郭がちゃんとある。
いつかめぐりあう景色かもしれないし、
一生ただよう大気みたいなものかもしれない。

でも、ちゃんと見たんだよ。
この目で見て、この思考にとどめた。
そして何かの折りに、よぎっていく。
つむじ風のように、ただ吹かれて、
あとにぽつんと残されて、その余韻にひたる価値もなくて、
何かに書きとめるほどのこともないし、
誰かに語るようなことじゃない。
むしろ、自分の中にだけしまっておきたいようなもの。
遠い昔の縁日に買った、
今では指の先でとまってしまう、おもちゃの指輪みたいに。

カーテンが揺れて、ページがめくれて、
ほんの一瞬だけ目に入ったひとつの言葉。
その言葉が自分に向けられたことがあった。
ただそれだけのこと。
そんなようなこと。
どうでもいいこと。
その言葉にだって、深い意味なんてなくて、
誰だって、いつも使っているような、
ありふれた一言。

あらゆることがにじんだような日常の生活のなかで、
とりわけゆるやかな午後のけだるさにひたされて、
その瞬間だけ、のどに骨がひっかかったように、
はっと目を見開く。
ようやく思いをはせる。
どれくらい夢を見てたのかって。

# by fiatlet | 2005-08-12 22:19 | 詩 手が届かない10の御題
手が届かない10の御題  01.蜃気楼



ずっとぼんやりとしていた境い目を、
どうにか追いかけようとした。
そこに何があるのか知りたくて、
そこに行けばどうなるのか、
そこの気温や香りを感じたくて、
追いかけることにした。

そうでないと、いつまでも、
ちゅうとはんぱに自分が過ぎていくような気がして、
それを思うだけで、胸が痛んだから。
いつかあの境い目をくぐりぬけるとき、
この身体も心も、
同じように得体の知れない、
実体のない状態で、
ただ、かき消えるような、
そんな恐怖にむしばまれてた。

でも、簡単なこと。
恐れるんだったら、
くつがえせばいい。
知りたいなら、
その一歩を踏み出せば、
もしかして答えは得られなくても、
追いかけたということだけで、納得がいく。
簡単だけど、
勢いのいることだけど、
できないことじゃない。
できないと思っているとしたら、
本当はただ、目を閉じていたいだけ。
自分がどこまで透明なのか、
実感するのを。

現実はいつもうまくいかない幻。
それなりに満足なら、それで続ければいいけど、
消化不良なら、
境い目をながめてみればいい。
反射的にその正体をつかみたくなったなら、
どんな手段もいとわないで。
リスクを犯す覚悟が整ったら、
あとはもう、実行するだけ。
蜃気楼を探す、
蜃気楼から逃れる、
長くて短い、
遠くて近い、
意識のあるような、ないような、
孤独だけど包まれてる、旅路へと。


# by fiatlet | 2005-08-12 22:18 | 詩 手が届かない10の御題
さいごなおだい  10.さいごに、あいしたひと



どうやっても、
うまくやれなくて、
不器用で、
やさしいことばもかけられなくて、
誰とむきあっても、
いらいらさせるだけ。

こびをうるようにして笑って、
相手の言うことにぜんぶあわせて、
こころにわだかまりをつくって、
でもきらわれるのは、
あまりにもこわくて、
いつまでも、
どこまでも、
じぶんをあいせないまま。

それでも、
いるんだね。
こんなにんげんでも、
たいせつにしてくれるひと。
いたわってくれるひと。
おもいだしてくれるひと。
このよわいこころのままで、
いいよって、
わらって、待ってていてくれるひと。

じぶんをあいさないとあいされないって、
かたくなにおもってたけど、
それこそが、
ほんとうにじぶんをあいせない理由だった。

あいされていいんだって、
じぶんでみとめることができて、
ようやく、
だれかへのあいのために、
つよくなれる気がする。

だから、
だれもが、
すれちがうだれもが、
このこころすべてで、
さいごに、あいしたひと。
さいしょに、あいするひと。
ずっと、おわることなく、
おしみなく、
あいをそそげるひと。

そうやって、
ひとを信じれるようになるまで、
ずいぶんながい道をきたね。
でも、ここがさいごでも、
さいしょでも、
とちゅうでも、
わすれないよ。
あのにがさを。
あのおもさを。
この、
いとおしさを。

# by fiatlet | 2005-08-05 22:58 | 詩 さいごなおだい
さいごなおだい  09.さいごにやりのこしたこと

もうすぐさいごだなぁっておもうと、
すぐに気がつく。
またやりのこしたなぁ、
たくさんのこと。

それまでやってきたことも、
どれもこれも、
ひとつもむだじゃなかった。
しあわせだった。
うれしかった。
満たされた。
でもさいごにだなぁっておもうと、
なにかたりないことに、
ふと、
たちどまってしまう。

行きたかった場所?
声をかけたかった人?
歌いたかった歌?
おぼえたかった詩?
えがきたかった絵?
安心したかった時間?
それとも、
戦いたかった相手?

いつもいつも、
ちょっとだけ後悔して、
帰ってきてしまう。
これがさいごじゃないよっておもいながら、
もしかしたらさいごかもしれないっておもいながら。

もしさいごだったなら、
もし戻れたなら、
どうなるかな。
またおなじことを、
くりかえしてしまいそう。
どんなにすべてをなしとげたようでも、
この世界はあまりに大きすぎて、
この手はあまりに小さすぎて、
なにかをおわらせることができないまま。

さいごにひとつ、
いつもおもう。
たとえこの身体が、
この世界から消え去っても、
きっと、
かえってこれる。
そしてそれでも、
きっと、
やりたいことのすべては、
できやしないんだよって。

だから安心して、
家に帰ろう。
このよわさを、
またはじめるきっかけにしようって、
胸に誓いながら。


もうすぐさいごだなぁっておもうと、
すぐに気がつく。
またやりのこしたなぁ、
たくさんのこと。

それまでやってきたことも、
どれもこれも、
ひとつもむだじゃなかった。
しあわせだった。
うれしかった。
満たされた。
でもさいごにだなぁっておもうと、
なにかたりないことに、
ふと、
たちどまってしまう。

行きたかった場所?
声をかけたかった人?
歌いたかった歌?
おぼえたかった詩?
えがきたかった絵?
安心したかった時間?
それとも、
戦いたかった相手?

いつもいつも、
ちょっとだけ後悔して、
帰ってきてしまう。
これがさいごじゃないよっておもいながら、
もしかしたらさいごかもしれないっておもいながら。

もしさいごだったなら、
もし戻れたなら、
どうなるかな。
またおなじことを、
くりかえしてしまいそう。
どんなにすべてをなしとげたようでも、
この世界はあまりに大きすぎて、
この手はあまりに小さすぎて、
なにかをおわらせることができないまま。

さいごにひとつ、
いつもおもう。
たとえこの身体が、
この世界から消え去っても、
きっと、
かえってこれる。
そしてそれでも、
きっと、
やりたいことのすべては、
できやしないんだよって。

だから安心して、
家に帰ろう。
このよわさを、
またはじめるきっかけにしようって、
胸に誓いながら。


# by fiatlet | 2005-08-05 22:55 | 詩 さいごなおだい
さいごなおだい  08.さいごにかいたてがみ

もう、すぐそこまで、
来てるんだよ。
もう、あとすこし歩くだけで、
扉をノックできる。

会いにいくねって、
てがみぐらい、
だせばよかったのに、
なんだか、
そんなふう再会は、
ちょっと気がのらない。

さいごにてがみをかいたとき、
「また、いつか」
って、かいたとおり、
今こうして、
「また、いつか」
が、来ようとしてる。

「また、いつか」
のまえを、
思い出せない。
なんてかいたかな。

たぶん、たわいのない、
つまらないこと。
てがみのなかみなんて、
そんなもの。
だいじなのは、いつも、
ひとことだけ。
「また、いつか」

さいごにかいたてがみの、
さいごの部分を、
ほんとうのことにしてもいいかな。
どんな顔するのかな。

あとはもう手をあげるだけで、
扉をノックできる。
でも、
ちょっとこわい。
「また、いつか」
を、
どれくらい、
のぞんでいてくれてるかな。

扉があかなかったら、
こころがひらかなかったら、
どうしようって、
不安が、
この手をとめている。

さいごにかいたてがみの、
さいごの部分、
「また、いつか」
を、
待っていてくれた?

「また、いつか」
を、
本気にしてくれてた?

「また、いつか」
を、
ゆるしてくれる?

さいごにかいたてがみの、
さいごの部分は、
いつも、
いつでも、
せつない祈りだって、
伝わってた?
# by fiatlet | 2005-07-20 06:16 | 詩 さいごなおだい
さいごなおだい  07.さいごにきいたおと

かちりと、あかりが消えた。
それが、さいごにきいたおと。

ことんと、胸の奥で、
さよならの道しるべが、
うごくのがわかった。

いまになって、おもう。
この耳にはいるおとのひとつひとつが、
いつかは消えてなくなっていくこと。
いつかは耳じゃなくて、
記憶のなかにだけのこるんだって、
覚悟していなきゃいけなかったこと。

かちりと、あかりを消したとき、
それがさいごだって、
自分でわかってたなら、
もうひとつ、
おとがほしかった。

もうひとつ、
おとをくれたら、
またもうひとつって、
それからも、
つづけていけたのに。

それがしるしだったなら、
あしたまでに、
この手がたてる、
さいごのおとを、
用意しなきゃ。

この手がたてる、
さいごのおと、
どんなものになるのかな。

この指がはじく、
さいごのおと、
どんなふうにひびくのかな。

それがさいごになるって、
うけとめられるのかな。

そのさいごのおとを、
ちゃんときいてくれるのかな。

それとも、
もう、
そのときは、
ひとりになってるのかな。

もう、
いまでも、
ひとりなのかな。

さいごがきたのに、
まだここにいるなんて、
とてもたまらない。

あしたまで、
じっとからだをまるめて、
おとをたてないようにして、
ずっとおとをたてないようにして、
そうしていたら、
そばにいさせてくれる?

人形みたいにおとをたてないでいたら、
そばにいてもいい?

息もとめて、
鼓動もとめて、
そうしたら、
いつまでも、
この耳にはいるおとが、
さいごじゃなくなる。

おともなく、
とじたひとみの奥で、
涙がたまっていく。

こつんと、石がふる。
いたい、いたい、
このからだを追いだそうとする、
石が、ふってくる。

かちりと、あかりが消えた。
それがさいごにきいたおと。
たとえそのままいっしょにいても、
それがどうしても、
さいごにきいた、
ほんもののおと。

# by fiatlet | 2005-07-19 05:59 | 詩 さいごなおだい
旅先で  74.通じてる?

 2度めのローマのホテルは、ローマ市内から地下鉄で行かなければならない、ちょっと不便なところにあった。
 ローマ自由行動の日、私とエルは初めてイタリアの地下鉄というものを使うことにした。
 ガイドブックによると、ローマの地下鉄には1日乗車券や通常乗車券など、各種のチケットがあるとのことだった。
 私は窓口で、
「Due Biglietto Integrato Giornalero, per favore」
(1日乗車券を2枚ください)
 と言う練習を、前の晩から行っていた。
 ドゥエ ビグリエットー インテルガートー ジョルナレッロ ペル ファヴォーレ。
 これを実行するのが楽しみでならなかった。
 さて当日。
 地下鉄までてくてくと歩き、いざ窓口へ。
 私は用意しておいたメモを手に、言い放った。
「Due Biglietto Intergrato Giornalero, per favore !」
 やった! 私は言ったぞ!
 しかし窓口のお姉さんは苦笑している?
 はれ?
 と思っていると、彼女は手で左の方向を指差した。
 自動券売機……。
 で、でも、通じた? 通じたんだ?
 ペルメッソやグラッチェやイルコントペルファヴォーレどころじゃない、
 こんな長い言葉が通じたんだ?
 感激!
 愛があれば言葉なんて、という人もいるけど、愛を伝えるには言葉も必要なんだ。


# by fiatlet | 2005-07-13 02:26 | エッセイ 旅先で
旅先で  48.メモ
 旅に行くとき、準備の初期の段階で手にするのが「メモ帳」。
 2泊以上の旅なら旅日記をつけたいし、泊まったホテルの部屋の家具の配置を書き記したり、
駅に無造作に置いてあるスタンプをおしたり、買ったもののレシートなんかも貼りつけてしまったりする。
(もっとも、このレシート、感熱紙が多いから3年もすれば消えてしまうのだけれど)
 そしてたいていのメモ帳は旅の間にうまることはまずないので、
 家に帰ったらちょっと読み返して棚に直行。
 またその場に行くのでもない限りお役ごめんだ。
 でもイギリスのメモ帳だけは別。
 旅だけで3回も行っているので、その都度、このメモ帳も必ず一緒に旅だつことになる。
 メモ帳の中身は、成田空港までの行き方、持っていくもの一覧表(つめこんだら横に線をひいて消してある)、ヒースロー空港についたらまずはどこへ行くか、その経路、絵ハガキを出すため友達の住所、飛行機の中で書いた旅程、ちょっと思ったことなど。
3回の旅のアウトラインがかすかながら見てとれる。
そのメモ帳のいちばん最初に、わけのわからない英文が数ページにわたって連なっている。
"I'm gonna eat up all if it is a little old.
Oh darlin, who are you, getthing the truth.
I'm gonna show by any hurtful way if you doubt me.
Oh darlin, I'm so fool to give you something important..."
 最初のイギリスひとり旅に出る前に書きつけたもののようだ。
 しばらく読んで、あ、と気づいた。
 ミスチルの歌詞だ。
 名もなき詩。
「ちょっとぐらいの汚れ物ならば/残さずに全部食べてやる
Oh darlin 君は誰/真実を握りしめる
君が僕を疑っているのなら/この喉を切ってくれてやる
Oh darlin 僕はノータリン/大切なものをあげる…」
 このイギリスひとり旅にはちょっと意味があった。
 職場で同僚からちょっとした(とも言えない。ひどかった)いじめにあい、情緒不安定になって、上司から1ヶ月の休職処分を言い渡されたのだ。
 くやしくて、頭にきていて、不公平だと思って上司を逆恨みしたり、でもそれも理不尽だとわかっていて、自分を責めて、もうめちゃくちゃだった。
 逃げ場を求めた。3日間、部屋にひきこもって、さまよって、たどりついた逃げ場、それがイギリスだったのだ。
 そのときに英語力を確かめる意味もあって、たぶん辞書はいっさい使わず、この詩を英訳してみたのだろう。
(そのことは、「この喉を切ってくれてやる」が「I'm gonna show by any hurtful way」と
湾曲的に訳されていることからわかる)
 でも、なぜこの曲を選んだのだろう。
 旅だちに際して書きとめるなら、「終わりなき旅」の方がしっくり来る気がする。
 でも今、「名もなき詩」の歌詞をよく読めば、なんでこの曲にしたか、わかるような気がする。
"as you hope to live yourself, you and I will get hurted.
If you try to run away from the prison that you made yoursel,
and others think that is what you are,
everyone is the same,
I'm quite the same."
「あるがままの心で生きようと願うから/人はまた傷ついてゆく
知らぬ間に築いていた自分らしさの檻の中で
もがいているなら誰だってそう
僕だってそうなんだ」
 たぶん私は許したかった。
 今は許せないいろんな人やものごとを許したかった。
 そういう感情にしばりつけている自分自身を脱ぎ捨てたかった。
 ひとりで悶々としているけれど、みんな、それぞれの場での苦しみがあって、その苦しみが糧となっているように、私の苦しみもまたむだじゃないと思いたかった。
 自分らしさで苦しむなら、しょうがないじゃないか。
 あきらめではなく、希望をもって、そう確信したかったから、逃げ場にこの詩を持ち込んだのだと思う。
 聖書を持ち歩くように。
 今度イギリスに行くときも、このメモ帳を持っていく。
 今でもそうだから。
 いつでも自分であることの苦しみに押しつぶされそうだから。
 そうなったら、このメモ帳を開く。
 希望をもっていた自分を思い出すために。




# by fiatlet | 2005-07-13 02:24 | エッセイ 旅先で
旅先で  38.朝のできごと

 イギリス留学で最初に入った家庭で、ホストマザーの妊娠が発覚。
 留学生なんか置いておけないと言われ、しばらくエリアアシスタントの家にお世話になった後、本格的なホームステイの家が見つかった。
「日曜の朝は何時ぐらいに起きるんですか?」
 と聞いたら、
「何時でも、いくらでも好きなだけ寝ていていいわよ」
 とのホストマザーのお言葉。
 それじゃあ9時ぐらいかな。
 と、目覚ましを適当にセットして眠りについた土曜の夜。
 翌朝、バタンとドアが開いて、ホストマザーが乱入してきた。
「Breakfast on the bed !」
 手にはパンケーキと紅茶の載ったお盆が。
 時計を見るとまだ8時半。
 半身を起こして呆然とする私の膝の上にお盆をおいて、
「See you later !」
 と出ていった。
 それはまるで嵐のような朝のできごと。
 ちなみにこのサービスは忘れた頃にたびたびやって来た。
 いま思うと、「もっと早く起きなさい」というサインだったのか、それとも単に甘やかしてくれただけなのか。
 でも土曜の晩、寝る前は、はたして翌朝がどうなるかいつもどきどきしていた。
 ちゃっかり者の私。
# by fiatlet | 2005-07-13 02:20 | エッセイ 旅先で
旅先で  28.向こうから見たこっち
 私にとってとても特別な場所、イギリス南部ヘイスティングスの丘。
 3年前、職場での人間関係でぐちゃぐちゃになって、上司から1ヶ月の職務停止処分をくらった私は、あの丘を探しに初めて1人で海外へと飛び出した。
 最初にあの丘にのぼったのはもう8年も前のこと。
 街のどこからどうのぼればいいかわからなくて、さんざんさまよった。
 1時間半もかかってたどりついた2月の丘は、寒くて、乾いていて、人気もなくて、さみしい場所だった。
 初めてここへ来たあの頃の私をどこへおいて来たんだろう。
 そう思いながら丘を横切って、旧市街へと降り立った。
 しばらく歩くと、また丘があった。
 あの丘からも見えた、もう1つのヘイスティングスの丘。
 ロープウェイは季節はずれで運行停止。
 革靴で必死になってのぼってみた。
 そこは一面の緑。
 あっち側の丘は舗装なんかもされているが、こっちの丘はただもう緑が生い茂っているだけ。
 はるか彼方には犬を連れた男の人がいるだけ。
 あとは何もない。
 もう夕方で、くもっていたせいもあって、まるで地の果てに来たような気分になった。
 ベンチに座って、しばらくぼんやり丘からの景色をながめた。
 いやでもあっち側の丘が目に入る。
 そしてはっとした。
 私は今、過去を見ている。
 あの丘は過去なのだ。
 過去を通り過ぎてきた私がとどまっている場所なのだ。
 そして今いるここは現在。
 じゃあ未来はどこに?
 これからの私はどこに?
 わからないけれど、未来を見通したいなら、過去を見つめようと、自然に胸にそんな思いが浮かんだ。
 あの丘に確かにいて、なくてしてしまったのか、見失ってしまったのか、今はもう見当たらない自分。
 そして今、混乱して、わけがわからなくなって、
 こんなところで1人でさまよっている自分。
 あのころ未来だった現在から見る私。
 いつか現在になる未来を探す私。
 でもどれも同じ1人の私。


# by fiatlet | 2005-07-13 02:19 | エッセイ 旅先で
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創作、ことばのあるところ。
by fiatlet
こんな人
名前 ひのき

とにかく言葉が好き。

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